エンジンメンテナンスにおける基礎知識
非常用発電装置の耐震強度について
日本は、世界的にも地震多発国で、先月も北陸地区(能登地区)で大きな地震が
発生しました。 その後も、九州地区で地震が頻発しているようです。
過去を振り返っても、阪神淡路大震災や東日本大震災など記憶に新しいところです。
不安をあおる必要はありませんが、『南海トラフ巨大地震』なども語られているようです。
さて、国内においては地震に限らず、台風や異常気象などに対し、十分な備えが必要で、非常用発電装置も我々を守る重要なアイテムの一つとなっています。
先日もあるお客様から、
『〇〇市から、施設内の非常用発電機における耐震強度の問合せがあった。
どのように対応すればいいのでしょうか・・・?』
というご質問を受けました。
そこで今回は、『非常用発電装置の耐震強度』について簡単にお話します。
結論から言うと、
『完成図書に記載されている【耐震強度計算書】を提示する』
という事です。
発電装置(エンジン・発電機・燃料小出槽・減圧水槽・発電機盤 等)を基礎架台に
取り付けているアンカーボルトの
・鉛直方向の強度 ・・・ 引抜荷重強度
・水平方向の強度 ・・・ せん断応力強度
において、十分な強度を備えている、というエビデンスがこの耐震強度計算書と
なります。
大きく分けて、設置されている非常用発電装置が
1)パッケージ型非常用発電装置 ・・・ 屋外や屋上などに設置
2)オープン型非常用発電装置 ・・・ 室内の発電機室などに設置
で計算書に若干の違いがあります。
【パッケージ型非常用発電装置の場合】
パッケージ型非常用発電装置の場合、発電機と原動機エンジンは、同じ
共通支台に設置されています。
よって、それぞれの
発電機 質量 ・ 防振ゴム個数 ・ 動的バネ定数
エンジン 質量 ・ 防振ゴム個数 ・ 動的バネ定数 ・ 回転数
という条件から、
1)共通防振支持したときの固有振動数 fz(Hz)
2)製作上の不均衡による強制振動数 f(Hz)
3)強動伝達率 τ
4)通常運転時の基礎への伝達力 F1(N)
5)始動時の基礎への伝達力 F2(N)
を計算します。
(詳細の計算式は、割愛します)
なお、ここで
5)のエンジン始動時は共振点を通過するので、伝達率はメーカーごとに
規定されています。(通常は、約30%前後です)
これにより、基礎への最大の伝達力を決定します。
【オープン型非常用発電装置の場合】
発電機と原動機エンジンは、パッケージ型と同様の計算ですが、それ以外に
1)燃料小出し槽
2) 減圧水槽
3)発電機盤
4)冷却水電動ポンプ
などがあります。
これらをそれぞれ、質量から計算します。
【アンカーボルト強度計算】
最終的に、上記でそれぞれの総動荷重:(N)を元に、
アンカーボルトの
1)せん断応力強度 (水平方向の強度)
2)引っ張り応力強度(鉛直方向の強度)
を計算します。
ここで、重要なことはそれぞれの機器の動荷重に対し、
1)地域係数 : Z・・・通常は、【1.0】 地震多発地域は【1.2】
2)耐震強度設計係数:Ks
を考慮することです。
このKsは、『日本建築センター:建築設備耐震設計・施工指針』により規定されています。
建築設備機器の設計用標準震度:Ks
耐震クラスS 耐震クラスA 耐震クラスB
上層階及び屋上及び塔屋 2.0 1.5 1.0
中 間 階 1.5 1.0 0.6
地下及び1階 1.0 0.6 0.4
局部耐震法による建築設備機器の設計標準震度:Ks
上層階の定義
・2~6階建ての建築物は、最上階を上層階とする。
・7~9階建ての建築物は、上層の2階を上層階とする。
・13階建て以上の建築物は、上層の4階を上層階とする。
中間階の定義
・地下、1階を除く各階で上層階に該当しない階を中間階とする。
【結論】
以上のことから、
それぞれの機器の動荷重:W
地域係数 :Z
設計用標準震度 :Ks
を用いて、
設計用水平地震力:FH(N)=W × Z × Ks (N)
設計用鉛直地震力:FV(N)=1/2 ×W×Z×Ks(N)
を算出し、
アンカーボルトの本数・ボルトのスパン・埋め込み長さ・軸断面積 及び
据付面より機器重心までの距離、ボルト中心から機器重心までの距離
コンクリートの穿孔径・コンクリートの設計基準強度
などから、機器の【水平方向のせん断力】及び【引抜き応力】 を算出します。
最終的には、
アンカーボルトのせん断強度 > 水平方向のせん断応力
アンカーボルトの引抜強度 > 鉛直方法の引抜き応力
であることを証明して耐震強度が保たれていることの証明となります。
【備考】
以上の内容は、設計・据付段階でのエビデンスであり、運用中の
メンテナンスにおいて、
弊社では【点検整備チェックリスト】において
・据付ボルトの緩み、き裂の確認(テストハンマーや増し締め確認)
・運転中の振動計測
などによって、その健全性を確認しています。
製造据付時の計算書と共に、参考資料として毎年実施している
これらのメンテナンス記録を添付すれば、間違いはないと考えています。