エンジンメンテナンスにおける基礎知識
今回は、『非常用発電機メンテナンスのポイント:その1(軸受と潤滑油)』に引き続き、
冷却水管理について、お話しいたします。
非常用発電機と一言で言っても、いろいろな種別に分類されます。
・その容量から、10kVAクラスから、1,000kVA超えのもの
・出力電圧から、100V~440Vの低圧タイプや6600Vの高圧タイプ
・設置状況から、屋内設置や屋外設置
・設置方式から、パッケージタイプやオープンタイプ
★そして、冷却水方式においては、
【ラジエータ冷却方式】【リモートラジエータ方式】
【放流冷却方式】
【地下水槽循環冷却方式】
【冷却塔方式】
【熱交換器冷却方式】
【空冷式】
などです。
この冷却方式によって、冷却水管理方法には違いがあります。
冷却水を使用する方式について、述べたいと思います。
1.一次冷却水(エンジン本体の冷却水)が密閉循環方式の場合
ラジエータや熱交換器による冷却方式の場合、冷却水系統の一次冷却水は
エンジン冷却で水温上昇⇒ラジエータや熱交換器で冷却
⇒冷却された冷却水をポンプで戻しエンジン冷却
と循環しています。
このような一次冷却水が密閉循環している冷却方式の場合、その冷却水内に、
クーラント(LLC:ロングライフクーラント)という薬液を一定量混入させます。
このクーラント管理が重要なポイントとなります。
1)クーラント(LLC)とは・・・
①凍結防止効果
一般的に、クーラントとは『不凍液』という言葉で表現される場合が多いです。
その名の通り、寒冷地などで外気温度が0℃以下となった場合、冷却水系統内で
冷却水が凍結しないように、クーラントを混ぜた冷却水を使用します。
使用する環境などにより最適な濃度に調整し、冷却水管理を行います。
②防錆効果
クーラントには、凍結防止作用だけでなく、防錆作用のための添加剤が含まれて
います。一般的に、電解腐食の防止効果です。
この防錆効果のある添加剤が冷却水系統の金属内管に作用し、防錆皮膜を形成
することにより、 発錆による腐食を未然に防ぐという重要な役割を持っています。
この添加剤は、冷却水系統の状況や経過時間で消費されていくもので、
毎年、クーラント濃度を計測すると、濃度が低下していく傾向にあります。
③沸騰防止および消泡
冷却効率が低下する最大の要因は【泡の発生】です。
液体と泡では吸収できる熱量が著しく異なります。
泡が発生することにより配管内の循環効率が悪化します。
クーラントを適量混合することにより、「水」の沸点である100℃以上でも
沸騰することなく、泡が発生しにくくなります。
また、急激な圧力変化によるキャビテーションの防止にもなります。
2)クーラント管理が悪いとき
①エンジン内部への冷却水漏れ
特に注意が必要なことは、シリンダライナの外周を冷却している箇所は非常に過酷な
条件下であり、エンジンクランクケースと冷却水通路をシールしているのは数本の
【Oリング】です。
冷却水の水質が劣化し、Oリングが経年劣化すると、冷却水がクランクケースに
漏水し、潤滑油内に冷却水が混入するため、【エンジンの焼付き事故】に至ります。
②冷却水ヒータの焼付き
冷却水系統に、電気式の冷却水ヒータが設置されている装置の場合、冷却水ヒータの
ヒータコイルに、冷却水の不純物が付着し、局部過熱によるヒータの故障(絶縁低下や
断線事故)が発生する場合があります。
2.地下冷却水槽などの場合
一般的に、このような冷却方式を【水道冷却方式】と言っています。
地下水槽の冷却水は循環しているとはいえ、その容量が大きいため、クーラント管理はされていません。よって、クーラント管理の密閉式より、より条件が厳しくなります。
3.冷却水管理方法
1)冷却水量の点検・補充
冷却水ヘッドタンクの水位を確認し、自然蒸発や若干の漏れを放置せず、
規定量まで補充する必要があります。
補充の際は水道水ではなく、規定の濃度に調整されたクーラント液を補充します。
2)クーラント濃度の計測
少なくとも年に1回は、クーラント濃度の計測をします。
著しい低下の時は、その原因を究明し、規定濃度に復旧させます。
3)冷却水の交換
非常用発電機の場合、通常は4年ごとに、冷却水の交換を行います。
4)水道冷却方式の場合
①試運転時に、エンジン出口のサーモ弁から地下水槽に戻る【サイトグラス】で
冷却水の色相などを確認してください。
場合によっては、地下水槽の冷却水の交換の提案も必要です。
②冷却水ヘッドタンクの定期的な内部点検、清掃が必要です。
③冷却塔使用の場合は定期的な点検及び洗浄、清掃が必要です。
④冷却水ヒータの『絶縁抵抗計測』『電流値計測』などを定期的に実施し、
ヒータの汚染情況を追跡確認する必要があります。
以上、冷却水管理について述べました
『非常用発電機メンテナンスのポイント:その1(軸受と潤滑油)』と共に、ご参考になれば幸いです。